鍵盤ブッシングクロスの虫喰い

遅くなりましたが今年もよろしくお願い致します。
年末にグランドピアノが入って来た事もあり、年末年始もずっと何かしら作業していましたがブログには気が回りませんでした。
2016年最初の記事はタイトルの通り、鍵盤ブッシングクロスの虫喰いです。
お洋服の虫喰いのようにピアノも虫に食われるってご存知ですか?
ピアノの部品、特に「クロス」と呼んでいる羊毛を編んだものはよくやられます。
具体的に言いますと
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鍵盤の中央付近の赤いやつ、バランスブッシングクロスと
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鍵盤手前の裏側、同じく赤いフロントブッシングクロスがよくやられます。
今回はこの鍵盤ブッシングクロスの貼り替え修理です。
この鍵盤ブッシングクロスはキーピンと鍵盤の間で適度な抵抗を作る為にあり、隙間があり過ぎても少な過ぎてもダメなのです。
虫喰いや過度の消耗で隙間が大きくなると鍵盤が斜めになったり、弾く時に上下以外の余分な運動をする為力が分散したり、酷い場合は(設計にもよるでしょうが)音が出なかったり別の音がなったりもします。
と言う事で貼り替えて行きます。
まずは古いブッシングクロスを剥がします。
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このよう濡れた布を剥がしたいクロスの上にあててアイロンで熱すると接着が弱くなり剥がしやすくなります。
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ピンセット等で取れます。
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手ぶれが酷いですが取れました。
通常はこの方法でいくつかまとめてアイロンをあてて取って行くんですが、このピアノは何かおかしい。
1つ取ると次はしっかり付いている。非常に手間がかかる。
同業の方はもうおわかりでしょうが、この部分の接着はニカワ(動物性の接着剤)や酢酸ビニルエマルジョン系(いわゆるボンド、ボンドは登録商標です)などの接着剤が使われて来ましたが、このピアノの場合ホットメルトと呼ばれる新しい熱接着剤で貼られていて、熱くなると融解し冷めると固まる為、熱いうちにさっさと剥がす必要があったのです。そして蒸気は不要。ホットメルトは身近なところではズボンの裾上げテープに利用されています。
そこで写真は撮ってありませんがアイロンのサイズ分鍵盤にまとめて、アイロンを直に乗せて十分に加熱し、順番に剥がしては新しい鍵盤をアイロンの下に入れ・・・と言う作戦に変更しました。
専用の工具もありますが持っていません。今度買います・・・
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剥がした後はブラシで穴を掃除。
クロスの切れっ端、穴開け時の木屑、ホコリ等を残さない様に。
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5鍵分でこの量。虫の死骸らしきものもあります。
次に新しいクロスの用意。
元のクロスの厚さ等を参考にちょうど良い厚さのクロスを選択
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このクロスの場合幅を自分でカットしないといけないので
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適当な寸法で切ります。(いい加減に切るって意味じゃないですよ)
後はひたすら貼るのみ。
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必要なだけ接着剤を付け(これは酢酸ビニルエマルジョンです)接着する位置に置いて
IMG_0485.JPGこれはフロント側
貼り駒と言う治具で固定
IMG_0486.JPGこれもフロント
IMG_0488.JPGこれはバランス側
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カットして次の鍵盤に移ります。
他に鍵盤をずらーっと並べて接着剤の付いたクロスを広げて切りながら一度に貼る方法もあります。
(説明が難しいですね・・・他社ですがyoutubeに動画があります。貼っていいのかわからないので気になる方は探してみて下さい。)
ブッシュマスター/コールズ/フィッシュグルー
(2/14追記:youtubeにあるんなら良いらしいので貼っておきます。リソースさん、ダメなら連絡下さい)
それにしても一人だと写真を撮るのが難しい作業ですね。
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接着剤が乾いたらはみ出していないかを確認して、全部のブッシングクロスをキープライヤーという工具で挟んでコロします。
ブッシングクロスを貼り替えた鍵盤はクロスが湿度等で膨らむ為か、キーピンを圧迫しキースティックと言って鍵盤が下がったまま帰って来ない状態になりやすいので、予め隙間を多めにしておきます。
他にも鍵盤下にあるパンチングクロス、ペダル関連のクロスなどが食われている事があります。
一番多いのはバランスパンチングクロスでしょうか?
今回のピアノもほぼ全滅でした。が写真を撮り忘れましたので先日のグランドの写真を。
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キーピンの下部、赤くて丸いのがバランスパンチングクロスです。
これの場合丸が歪になっていたり、完全になくなっていたりしますが、新しいものと取り替えるだけなので簡単です。(と言っても88個なので少々時間がかかりますが)
調律の時に鍵盤周りの掃除をするのは、この虫喰いを発見/対処するためでもあります。
定期的に調律、掃除をしていればこの修理をする頻度は格段に下がります。